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2024/01/17

絶対にやめて‼犬猫の無麻酔スケーリング(歯石取り)の危険性について獣医師が徹底解説!<院長>

絶対にやめて‼犬猫の無麻酔スケーリング(歯石取り)の危険性について獣医師が徹底解説!<院長>

こんにちは、歯科・腫瘍科に力を入れている愛知県一宮市のおおい動物病院の院長、獣医師の大威です。

 

診察中やSNSなどで「トリミングサロンで歯石とってもらってるから大丈夫」というセリフをよく聞きます。

無麻酔での歯石取りは動物にとって肉体的・精神的に苦痛なだけでなく、(見た目はキレイになるかもしれませんが、)歯周病の予防にも治療にもならないどころか、悪化させる危険すらあることをご存じでしょうか。

今回は治療としての麻酔下でのスケーリング(歯石取り)と無麻酔で行う危険性について説明します。

 

目次 

①    そもそも犬猫に限らず、歯周病とは一体なに?

②   犬猫の無麻酔でのスケーリング(歯石取り)の危険性

③    当院での犬猫の麻酔下でのスケーリング(歯石取り)について

④    犬猫の歯周病に対し、無麻酔でもできること

⑤ 犬猫の歯周病と無麻酔スケーリングまとめ

 

 

①    そもそも犬猫に限らず、歯周病とは一体なに?

 

歯周病という言葉を聞いたことはあると思いますが、正確に理解している方は意外と少ないです。日本臨床歯周病学会によると「歯周病とは細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患で歯の周りの歯ぐき(歯肉)や、歯を支える骨などが溶けてしまう病気」とされています。

歯垢(プラーク)の中には大量の細菌が含まれており、この中に含まれる歯周病菌が出す毒素により歯肉の炎症や歯の融解が起きていきます。またこの毒素は全身にも影響を及ぼすことが分かってきており、心臓・肝臓・腎臓・肺などにも悪影響を及ぼします。

つまり歯周病とは、細菌感染が原因の進行性の全身性の炎症性疾患なのです。

 図1.png

日本臨床歯周病学会より

  

  

②    犬猫の無麻酔でのスケーリング(歯石取り)の危険性

 

近年、法律的にも許されていないトリマーや動物看護士、歯科衛生士などが犬猫に対し、無麻酔で歯石をとることによる弊害が多発しています。そもそも歯石は歯周病の直接的な原因ではないため目で見える範囲の歯石を取ったからといって、歯周病の治療にも予防にもなりません。

それどころか口腔内のケガや歯周病の悪化、下顎骨の骨折などの身体的な弊害や恐怖や苦痛体験により口回りを触れなくなったり、トラウマになって性格の変化が起こるなどの精神的弊害が出ます。

まさに「百害あって一利なし」といった拷問めいた行為が横行しています。人間で例えると下のイラストのようなものです。

SWI.jpg

SWI HPより

 

 

③    当院での犬猫の麻酔下でのスケーリング(歯石取り)について

 

当院では動物の安全・安心に配慮し且つ最大限の効果を上げるために、麻酔下での歯科処置を行います。動物病院でのスケーリングは、便宜上スケーリング(歯石取り)といいますが、実際には歯石を取るだけではありません。その内容は以下のようになります。

(麻酔後)

1 口腔内レントゲン検査 

   歯周病の程度の把握として大前提必要な検査 診断・治療・予後判定に必須

2 口腔内検査

   歯肉の炎症程度 歯垢・歯石の付着程度 歯の動揺度(グラつき)

   根分岐部病変 歯周ポケットの深さ(アタッチメントロス)

 などの項目を見て触って検査します。

3 スケーリング

   いわゆる歯石取り 見てわかる汚れを取ります。

4 ルートプレーニング

   歯周ポケット内の歯垢・歯石を取ります。 

   ポケット内の歯垢が歯周病菌の感染巣なのでここを徹底的にキレイにすることが歯周病の治療になります。

5 キュレッタージ

   歯周ポケット内の汚染・炎症部位を掻爬し、取り除く処置

   ルートプレーニングと合わせてポケット内を清浄化します。

6 ポリッシング

   研磨作業 歯石を除去した後の歯は細かい傷がたくさんあります。

   研磨してツルツルにしておかないと処置前よりも歯垢・歯石が付きやすくなります。

   怠ってはならない必須作業

7 抜歯 歯周外科処置

   進行した重度の歯周病の場合、抜歯や歯周外科処置も必要になります。

 

麻酔下でしっかりと検査・処置を行うことが歯周病治療の大原則になります。

スケーリング 

beforebefore.jpg

after after.jpg

 

 

④    犬猫の歯周病に対し、無麻酔でもできること

歯周病治療の大原則は口腔内の衛生管理であり、スケーリングは最も効果的です。

スケーリングに麻酔は必須ですが、様々な理由で麻酔がかけられないペットもいます。そういう子たちにもやってあげられることはあります。

しかし歯石を除去できるわけではなく、歯周病菌の増殖を抑制したり、炎症を和らげて痛みを緩和するような対症療法がメインになります。

  

1 インターベリーα

  歯茎に塗布するお薬です。 

  歯周病菌に対する抗菌作用が認められており、医薬品なので保険が使えます。

インターベリー.jpg

物産アニマルヘルス株式会社HPより

 

2 鍼灸治療 東洋医学的アプローチ

  東洋医学では「局所の疾患は五臓の病変の表れ」と考えます。

  例えば歯周病も単に歯や歯茎の疾患ではなく、口腔をつかさどる脾、歯をつかさどる腎の病変が歯茎や歯に投影されたものと考えます。

  これらを整えることにより歯周病の緩和を目指します。

  

3 レーザー治療、プラズマ治療など

  レーザー照射やプラズマガスを吹き付けることにより歯周病菌の殺菌作用、歯肉炎症の軽減、疼痛緩和などが期待できます。

あすか.jpg

飛鳥メディカルHPより

 *当院では対応していません。

  

  

⑤ 犬猫の歯周病と無麻酔スケーリングまとめ

 

動物の歯石を無麻酔で除去することは肉体的にも精神的にも非常に危険な行為で、治療という名を騙った虐待行為です。愛するペットのためにも是非安全でしっかり効果のある麻酔下でのスケーリングをおすすめします。

 

0157.jpg◆執筆:大威政洋<おおい動物病院院長・獣医師>

比較歯科学研究会所属

日本小動物歯科研究会認定 レベル1−4講義・実習 受講修了

我が家のシェルティ・オグトくんは毎年麻酔下でスケーリングをしています。毎年麻酔下でスケーリングを行った犬は、死亡リスクが約20%低下するという報告があります。ピカピカな歯で長生きしてほしいです!